なぜ、そのDXは“使われないシステム”になるのか──5つの分岐点
導入して半年。ふと現場をのぞくと、みんな元のExcelと手書きに戻っている。高いお金と、長い時間をかけたのに——。
これは、特別に運が悪かった会社の話ではありません。同じパターンが、驚くほど繰り返されているのです。私はこうした現場をいくつも見てきました。そして気づいたのは、失敗はある日突然起きるのではなく、いくつかの“分岐点”で静かに決まっている、ということでした。
今日は、その5つの分岐点を解剖します。もし心当たりがあれば、まだ引き返せます。
分岐点1:「なぜやるのか」が現場に降りていない
経営は「DXをやれ」と言う。でも現場には「なぜ、これをやるのか」が伝わっていない。目的が腹落ちしていない道具は、使われません。人は、意味のわからない作業を続けられないからです。
実際、私は現場でこう言われたことがあります。「こんな量の情報を入れて、何のためになるんですか」「これを入力したら、僕の給料は上がるんですか」。シビアに聞こえますか? でも、これは現場が悪いのではありません。メリットが一度も語られていないだけなのです。ここが、最初の分かれ道です。
分岐点2:現状の業務を“見ないまま”ツールを選んだ
いまの仕事が、実際にどう流れているのか。誰が、何を、どの順でやっているのか。ここを見ずに「機能が多いから」でツールを選ぶと、現場の実態とズレたシステムができあがります。
あるベンチャー企業で、こんな失敗を見ました。勢いでExcelからkintoneに移し、「これでデータベース化して分析できる」と意気込んだ。ところが移行をリードしたのは、横文字とツールいじりには強いけれど、エンジニアでも、営業やマーケの実務家でもない担当者でした。
結果、どうなったか。データの構造がわからないまま作ったせいで、抽出できるレポートが月の実績と案件数の2つだけ。もっと分析できるはずのデータが、まったく引き出せない。おまけに、データベースの箱の中にデータベースを作り、その中にまたデータベース——マトリョーシカのような三層構造になっていて、いちばん奥の情報は誰も取り出せませんでした。皮肉なことに、Excelでピボットを組んだ方が、よほどきれいにデータが見えたのです。立派なようで、現実に使えない。だから使われない。
※念のため。kintoneもGRANDITも、それ自体は本当に素晴らしいツールです。悪いのは道具ではなく、選び方と使い方——毎回そこなんです。
分岐点3:「入れること」が目的になっていた
補助金の期限、経営会議の締め切り。気づけば「導入すること」自体がゴールにすり替わっている。本当のゴールは「導入したあと、成果が出ること」なのに。
別の現場では、自社システムから基幹システム(GRANDIT)への移行そのものは、うまくいっていました。ところが、いざ現場でのOJTが始まると「使いづらい」の声が噴出。押されたシステム側が要件を曲げてしまった。その結果、当初「これを見たい」と定義したはずの分析レポートが出せなくなり、残ったのは“ただデータを入力する”という作業だけ。何のために入れたのか、誰も答えられなくなっていました。ゴールを見失った瞬間、プロジェクトは“終わらせるための作業”に変わるのです。
分岐点4:定着の設計が、誰の仕事でもなかった
導入が終わると、ベンダーは去ります。社内のIT担当は忙しい。すると、「使ってもらう工夫」を誰も担当していない状態が生まれます。研修も、ルールづくりも、つまずいた人のフォローも、宙に浮く。道具は、配られただけでは根づきません。
分岐点5:「うまくいっているか」を測っていない
最後の分岐点。成果を測る“ものさし”を持っていないこと。入力率は上がったか。工数は減ったか。現場は楽になったか。測っていないから、うまくいっていないことにも気づけない。気づいたときには、みんな元のやり方に戻っています。
裏を返せば、この5つを押さえれば、失敗はかなり避けられます。「なぜやるか」を現場と共有し、現状を見て、目的を見失わず、定着を誰かの仕事にし、成果を測る。当たり前のようで、走り出すと抜け落ちるところばかりです。
私は、この5つの分岐点で正しい方に進めるよう、発注者の側で伴走しています。“後悔から学ぶ”を、あなたには繰り返してほしくないのです。