“何から手をつけるか”がわかる、DX優先順位のつけ方
「DXを進めたい。でも、何から手をつければいいのか分からない」——これは、私がいちばん多く受ける相談です。
情報は溢れています。あの会社はAIを入れた、この会社は生産管理を刷新した。セミナーに行くたびに「うちも何かやらねば」と焦る。でも、あれもこれも同時に、は必ず失敗します。手をつける順番を間違えると、体力もお金も尽きてしまうからです。
今日は、優先順位を決めるための“ものさし”をお渡しします。難しいフレームワークは要りません。
まず、頭の中を「1枚の絵」にする
以前、「営業管理ツールを入れたいが、何から始めればいいか分からない」と相談を受けたことがあります。私がまずやったのは、いきなりツールの話をすることではありませんでした。各部署の部長と、プロジェクトの担当者と、私の3人で、とにかく徹底的に話し合ったのです。
そして、影響のある部署を、片っ端からかけずり回りました。営業やマーケだけではありません。ふだん口数は少ないけれど、会社を支えている人たち——たとえば工場や、発送の担当者。「この製品のシリアル番号って、どう管理してるんですか」「配送データは、そのあとどこへ流れるんですか」。声の大きい部署だけを見てシステムを作ると、こういう“縁の下”の人たちが置き去りになり、結局は誰も使えないものになります。
このとき私が見ているのは、会社を巡る3つの流れです。モノの流れ(仕入れ・製造・在庫・発送)、お金の流れ(受発注・請求・入金・原価)、そして情報の流れ(誰が何を入力し、どこへ渡っていくか)。この3つを、ロジックツリーで整理し、ホワイトボードツール(MiroやCanvaなど)で一枚の絵にしていく。すると——「あ、うちの会社って、こう回っているのか」という全体像が、初めて目の前に現れます。
この“交通整理”こそ、何よりも先にやるべきことです。優先順位は、全体が見えて初めて、つけられるのです。
次に、2つの軸で並べる
全体が見えたら、課題を2つの軸で見ます。
ひとつは「効果」——解決したら、どれだけ楽になるか・儲かるか。もうひとつは「着手のしやすさ」——お金・期間・現場の負担が小さいか。この2つで、各課題をざっくり点数化します。
最初にやるべきは「効果が大きく、始めやすい」もの
優先すべきは、「効果が大きくて、しかも始めやすい」課題です。ここから手をつけると、早く成果が出て、社内に「DXって意味あるじゃん」という空気が生まれます。最初の小さな成功が、次を動かす燃料になります。
このとき、私が効果的だと感じているのが、「階層ごとに、専用のレポートを作る」というやり方です。現場、課長、部長、役員——立場によって、見たいデータの粒度はまるで違います。だから階層ごとに、「あなたは毎週これだけ見ればいい」「あなたは毎月これを追えばいい」という専用のレポートを、最初に用意する。
すると、現場は「自分が入力したデータで、次にやるべきことが分かる」と実感できる。上の人も、見たい数字がちゃんと見える。“入力する現場”と“見たい経営”の両方が、同時に得をする。この小さな好循環が生まれると、DXは驚くほどスムーズに回り始めます。
“やらないこと”を決めるのが、いちばん難しい
優先順位づけの本質は、実は「やらないことを決める」ことです。全部やろうとするから、全部が中途半端になる。ひとつに絞って、そこで成果を出す。その勇気が、DXを前に進めます。
そして——ここが大事なのですが、「効果が大きいから」とベンダーに勧められるまま大きな買い物から始めてしまうケースが、後を絶ちません。順番は、売り手ではなく、あなたの事情で決めるべきです。
「うちの場合、何から手をつけるべきか」を、いっしょに交通整理することもできます。ツールを売る立場ではないので、「それは今はやらなくていい」も正直にお伝えします。まずは頭の中を、いっしょに並べ替えてみませんか。